ミノックスという不思議なカメラ

ミノックス(MINOX)という不思議なカメラがある。手のひらに収まる小型で美しいカメラだ。

写真のミノックスはドイツ製だが、オリジナルのリガ・ミノックス(Riga-MINOX)は1937年にラトビアで生まれた。この時の設計が後継機に引き継がれ、デザインと内部構造はほぼ同じままで何十年も生産された。当初の完成度が相当高かったのだろう。

ミノックスを発明したのはドイツ系でラトビア生まれのヴァルター・ツァップ(Walter Zapp)と言われている。しかし、本当の発明者は別に居て、ツァップは発明者とされているだけという説もある。

スパイ用カメラとして活躍

超小型のミノックスは手のひらに収まるサイズで、携行時にはレンズやファインダーはボディ内に収容される。

下の写真はケースに入ったところ。ミノックスを知らない人にはカメラには見えないと思う。付属のスネークチェーンにはコブがついていて、それぞれ20、24、30、40、60cmの距離も測れるようになっている。これは後述の書類を撮影するときなどに使う。

ボディを引き出すと、ファインダーとレンズが現れる。シャッターを切ってボディを押し込むとフィルムが巻き上げられる。上手にやれば、撮られたことを相手に気づかせずに撮影することが可能なわけだ。

レンズはF3.5で絞り機構はなく常に開放で撮影するが、単焦点15mmレンズなので被写界深度はかなりある。つまり、広い範囲でピントが合う。

距離の設定も可能で、最短撮影距離は20cm。ハガキ大の書類を撮影することも可能である。

これが実はすごい。普通の一眼レフで室内光のもと、三脚を使わずに手持ちで小さな書類を撮影をするのはけっこう難しい。ここまで近寄れないし、絞らないと被写界深度がとれないし、絞るとシャッタースピードを落とさないといけなくなるので。

ミノックスにはファインダーのパララックス(視差)自動補正機構までついていて、いたるところまで精密で高機能である。

今でこそスマートフォン内蔵の小型カメラがあって、そういう撮影も簡単だが、戦前、戦中のフィルムカメラでこのサイズと性能はかなり画期的だったはず。

実際、スパイ活動に最適なカメラとしてしばし使われたそうで、その記録も多く残っているそうだ。

第二次世界大戦

ミノックスは1938年に量産が開始され、翌年までに17,000台を生産したが、第二次世界大戦の勃発もあり生産終了となってしまう。

そういうわけで結局、ミノックスを手に入れたい国まで十分に回らず、アメリカ、ソ連、日本、フランスなどで諜報用にミノックスを真似た亜種も作られた。

一方、ツァップは1941年にラトビアを脱出してドイツに移住する。1945年終戦後にライカ工場のあるヴェッツラー(Wetzlar)にMinox GmbHを設立。その後ミノックス社は紆余曲折を経ながらもドイツで生産を続けている。

アクセサリー

ミノックスはアクセサリーもとてもユニークである。下の写真は三脚。脚が入れ子になっているほか、中にレリーズまで入っている。

組み立てるとこんな感じ。カメラ自体が軽いので、横向きにしても問題なさそう。

そしてこれはもっと面白い。双眼鏡用の固定器具。

片目で確認しつつ写真を撮れば、ズーム写真が撮れるというもの。これも諜報用に作られたのだろうか?

魅力のある製品

そんな歴史を辿ってきたミノックスは、すごく魅力のある技術遺産だと思う。

この手持ちのミノックスもまだ使える状態ではあるけれど、ミノックスフィルムでの撮影は35mmフィルムを使えるアナログカメラよりさらにハードルが高い。でも、今でもどこも問題なく動くし、見れば見るほど素晴らしい設計で感心する。

今はこういう寿命の長い製品が作られていないのも残念だなと思ったりした。




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