Königsberger Klopseのナゾ-土地の食材で作られていない名物料理

Königsberger Klopse

Königsberger Klopseは私の大好きなドイツ料理だ。『ケーニヒスベルクの肉団子』と訳すと分かりやすいかもしれない。ドイツ料理屋さんにもあるし、メンザやカンティーネなどの食堂でも出る定番料理である。

元は名前の通り、東プロイセンの首都ケーニヒスベルクの名物料理だ。 ケーニヒスベルクは第二次世界大戦以降、ロシア領となり、現在カリーニングラードと呼ばれている街。つまり、今はドイツではないのだが、それでもKönigsberger Klopseは代表的な『ドイツ料理』のひとつだ。

ちなみに、ドイツが失った土地の名物は、ほかにもRügenwalder TeewurstTilsiter KäseKarlsbader Oblatenなどがある [1]。いずれの街も今はポーランド語、チェコ語などで違う名前がつけられているが、民衆に好かれた名物は今でも作られ、食べ続けられている。

Königsberger Klopseのレシピ

さて、Königsberger Klopseのレシピはざっと以下のようなものが主流だ(太字の材料は注目すべきもの)。

  1. Brötchenをふやかし、みじん切りの玉ねぎ、合い挽き肉、卵と混ぜ合わせ、塩、胡椒をふる。
  2. アンチョビをよく水で流してから、みじん切りにして1.の中に混ぜ合わせ、均一になるまでこねて団子型にする。
  3. 鍋に塩を入れた水を入れ沸騰させ、上の団子を20分ほど茹でる。
  4. バターを別の鍋に溶かし、小麦粉を入れ、混ぜてルーを作る。これに団子を茹でた水を入れ、ソースにする。
  5. 4.のソースにケッパーを入れ、レモンの絞り汁、塩、胡椒、砂糖で味付けする。
  6. 卵黄生クリームと混ぜ合わせ、ソースに加える。
  7. 3.の団子を出来上がったソースに入れ、茹でたジャガイモを付け合わせて盛り付けする。

ところが、このうちケッパー、レモン、アンチョビは、ケーニヒスベルクでは簡単には手に入らない食材だったのだ。ケッパーとレモンはもっと暖かい土地でないと育たないし、アンチョビのカタクチイワシが採れるのはせいぜい北海までで、ケーニヒスベルクが面しているバルト海で採れるのはニシンだ。

つまり、Königsberger Klopseは『土地で手に入らない食材で作った地元の名物料理』なわけで。これは謎でしかない。

Königsberger Klopseのレシピができたのは約200年前らしい。最初の頃は合い挽き肉ではなく、子牛の肉が使われたそうだ。1845年発行のHenriette Davidisによる有名なレシピ本にも、Königsberger Klopseのレシピが載っている [2]。

このレシピにも、ケッパー、レモン、アンチョビはしっかり入っている。上のレシピとの大きな違いは、ソースにもアンチョビまたはニシンを入れることとだろうか。ほかに、レモンは果肉をそのまま入れ、ワインビネガーも加えるが、生クリームと卵黄は使わない。

つまり、ほぼ当初から、ケッパー、レモン、アンチョビが入っていたということだ。

ほかにケーニヒスベルク出身で有名な哲学者のイマヌエル・カント(1724-1804)が、多くの客人にケッパーの入ったソースに浮かぶ肉団子をジャガイモとともに供していたという記録もあるらしい [3]。そういう訳で、彼が名物料理の完成に一役買ったのかもとも言われている。

Königsberger Klopseは高級料理だった

結局、「なぜ土地で手に入らない食材が使われているのか?」という謎の答えは、裕福な層のために作られた料理だったのが理由ということのようだ。200年前はケッパー、レモン、アンチョビ以外にも、子牛肉は高級食材だったし、ひき肉を作るミートミンサーも発明されていなかったので、Wiegemesserなどを使い、手でみじん切りにするしかなかった。

はっきりとした記述は見つけられなかったが、東プロイセンの首都で最初は階層が高くて裕福な層にふるまわれたが、美味しかったのでその後、庶民にも広まっていったのだろう。ただし、庶民には高級食材は手に入れられないので、代わりの食材を使ったようだ。

私の義母もケーニヒスベルク近郊の出身だが、夫によると彼女のKlopseにもケッパーは入っていなかった(知り合った時には彼女は既にベジタリアンだったので、私は彼女のKönigsberger Klopseは食べた事がない)。

下のリンクのレシピは、著者の東プロイセンのひいおばあちゃんのものなのだとか。このレシピには、ケッパー、レモン、アンチョビは入っていないし、肉団子を茹でたお湯をそのままソースにする時短&洗い物が少ないメニューになっている。材料が抜けたことによる酸味と旨味は、ローリエ、オールスパイス(Piment)とスメタナ(Schmand)を入れることで解決しているようだ。義母のレシピも大体こんな感じらしい。

ほかにもレシピを見てみると、ナツメグやパセリ、玉ねぎ、ワイン、パン粉などが入ったり入らなかったりするバリエーションがある。東プロイセン出身の家族から教えてもらったレシピというのは、大体がケッパー、レモン、アンチョビがなしだったり、ニシンで代用するもののようだ。

今度、私も東プロイセンの歴史に思いを馳せつつ、ケッパー、レモン、アンチョビなしのKönigsberger Klopseを作ってみようと思う。高級感は出なくても、きっと美味しいだろうとは想像している。

[1] Was bleibt übrig von den Deutschen aus dem Osten?

[2] Henriette Davidis: Praktisches Kochbuch für die bürgerliche und feine Küche. Reprint der Berliner Ausgabe, Augsburg 1997; Erstveröffentlichung 1845; 7. Fleischspeisen aller Art; 34. Königsberger Klops. 7,34

[3] https://deutscherglanz.de/essen-wie-die-deutschen-heute-koenigsberger-klopse/

その他の関連リンク

Kleine Kulturgeschichte der Königsberger Klopse

Vertrieben – Die Geschichte meiner ostpreußischen Familie




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